「老朽化した高齢者施設が抱える問題」

今回ご紹介するのは、介護付き有料老人ホームの事例です。昨今最も増えている譲渡を決断される理由の一つが「施設の老朽化」に伴う稼働率の悪化です。ご相談に来られた経営者は、神奈川県で定員数52名の介護付き有料老人ホームを運営していました。2002年に施設を開設し堅実な経営を続けてきましたが、2011年3月11日の東日本大震災が譲渡を決断するきっかけとなりました。2002年に開設した施設は、某企業の研修施設であったものを改装して介護施設に変更したものでしたが、開設時点で建物は既に「築20年」、つまり震災の時点で「築30年」となっていたのです。そして震災以降、以前より建物の耐震機能について注意を払う入居希望者が増えたことにより、退去者が入居者を上回るような状況となり、資金繰りが急激に悪化していきました。経営者の方はコスト削減努力を進めてきましたが、限界が近づきつつありました。そして、経営者の方と私が実際にお会いしたのは5月、その際経営者の方から8月で資金がショートすると告げられました。タイムリミット3カ月の中でお相手を見つける事は至難の業であり、ご契約そのものを悩みましたが、高級路線の介護付き有料老人ホームを運営している事業者ではなく、一時入居金を限りなく低く設定している事業者であれば承継の可能性はあると判断し、支援させて頂くことになりました。当初、ご提示申し上げた候補先20社の中から経営者の方と議論を尽くし、絞り込んだ候補先に提案、最終的には2社の中から、企業文化を理解し、従業員を大切にしてくれると判断した東京の事業者に売却をすることを決断されました。譲渡日は8月第3週、タイムリミットまで残り半月といったタイミングでした。経営者の方は現在経営の第一線から退かれ、金融機関の債務保証も全て解除となり新しい事業に挑戦していらっしゃいます。箱モノ介護事業は、「施設の老朽化」という問題から逃れられません、以前なら一時入居金800万を見込んでいた施設も、築年数が30年を超えると、近隣に新築された各種高齢者住宅に比べるとハードの部分で見劣りしてしまいます、すると800万円の一時金では入居者を確保できず、顧客層すら変更しなければ稼働率の悪化に歯止めが利かない状況になりかねないのです。いまだ、日本には多くの研修所型・社員寮型の施設は数多くあり、それらを単独資本で運営している経営者のかたは将来に向けて早め早めの判断をしていく必要があるということになります。次回も引き続き事例をご紹介させて頂きます。

高齢者住宅新聞3月25日号から転載

 

AUTHOR PROFILE

営業本部 医療介護支援部 部長

谷口 慎太郎

大手金融機関、投資銀行を経て2009年に日本M&Aセンターに入社。医療・介護を中心としたヘルスケア領域での投融資やM&Aを数多く手掛け、これまで関与したM&A成約実績は50件を超える。主宰する医療・介護M&Aセミナーでは、現場経験に基づいた講演が毎回好評。最新の業界動向・M&A事例やスキーム解説など、ヘルスケア関連雑誌への寄稿も多数行っている。