blog20141122

これからの時代に生き残る病院というのは、シンプルにいうと、株式会社により近づける病院、ということができると思います。より企業経営に徹した医療法人ですね。将来人口が減少していくのですから、国が定める診療報酬をはじめとした「制度」に「おんぶに抱っこ」では、早晩経営は苦しくなるでしょう。
企業であれば、自分なりのポリシー・理念に従って、何を地域で提供していくかを考え、他社が行っていないサービスを展開していく経営努力を当たり前にしています。いかに差別化できるかがポイントなのです。
医療においては、経営的に優良な病院は現状でもそれを実践できているのではないでしょうか。逆に、「おんぶに抱っこ」の経営状態の医療法人は、たとえ経営努力の必要性を認識したとしても、力が伴わずに淘汰されているように感じます。

後継者をどう確保するかが生き残りには必須の条件

病院は、自然淘汰的に集約化が進んでいるように感じます。これは、都心であれ地方の過疎地であれ、大なり小なりそうした状況になっていると感じています。1つだけ言えることは、後継者がいるかいないかが、これから生き残りの1つのポイントになってくるのではないでしょうか。
病院経営者のご子息は、多くが医学部に進学し、医師となっています。しかし、私の実感では8~9割が、ご子息が「病院を継がない」という選択をしているのではないでしょうか。比較的医師が集まりやすく、都市型の生活が送れる環境にある地方中核都市ですらそうした傾向にあります。過疎地などではまして、後継者が「継がない」選択が多くなっていると思います。
その要因の1つに、病院の経営者というものが魅力的な仕事ではなくなっている、ということが挙げられるでしょう。とくに過疎地などでは、医師の確保が難しく、経営者である父親が1人で毎日当直までこなすような「苦労している姿」を見て育っています。さらに、大学病院などで最新の医療技術を身につけ、これからそれを存分に発揮しようというときに、地方での病院経営という医療技術と関係ない管理面に時間を取られてしまうのは、理想の医師としての姿とかなり乖離する場合もあるでしょう。
では、内部昇格で副院長などに経営を譲るとしたらどうでしょうか。多くの場合、理事長は設備投資などに際して借り入れの連帯保証をしています。しかも何億円の単位です。これも併せて引き継ぐことに二の足を踏む「副院長」が多いのです。さらに、社会全体が高齢化しているのと同様に、病院の施設自体が老朽化という問題を抱えており、建て替えを迫られているケースもあります。これらが重層的にからみあうと、「後継者難」に拍車がかかります。後継者がいなければ、経営者は病院を閉じるか、M&Aなどによって第三者承継をするかしかありません。閉院すれば、病院自体の減少につながっていくため、地域医療のためにM&Aで病院のを第三者に託す理事長も増えています。

大手の介護企業が病院経営に食指

M&Aというのは、需要と供給のバランスで成り立っています。供給源のほうは、これまで述べた通り、制度に「おんぶに抱っこ」であったり、後継者難であったりする法人です。一方、需要、つまり「買い手」は、近年変化がみられるように感じます。
かつては、誰でも名前を知っているような大規模な病院グループが積極的にM&Aを使って規模拡大を図っていました。しかしここ1~2年、そうした動きがパッタリと止まっています。1つには、そうして経営を握った病院が、建て替えの時期を迎え、そちらに投資を集中せざるを得ないという事情があるようです。一部の「後発組」にはまだまだ元気なところもありますが、大手はほとんどがそちらにシフトしています。
代わって興味を示しているのが、介護関連の大手企業です。地域包括ケアシステムの構築や、地域医療ビジョンなどで、地域における医療・介護を一体的に、かつシームレスに提供してくことが求められるようになっています。医療も「病院完結型」から「地域完結型」への転換を迫られています。
その際に、中心にいるのは病院です。少なくとも医療の部分での中心、司令塔は病院であると考えられます。さらに、医療提供体制を備えているということが、地域住民の信頼にもつながっています。病院の「周辺」でマーケティングを行っている介護企業には、病院が「本丸」のように映っているのでしょう。何とか「本丸を手に入れたい」という思いで、病院のM&Aを検討し始めています。介護企業にとって「医療機能を持っている」ということは、最大の差別化要因になるということなのです。地域を1つのシニアタウンだと考えれば、「うちは医療まで含めた完成されたシニアタウンなんですよ」とアピールすることができるわけです。

市場としては「量」の評価から「質」の評価に変化

実際にM&Aで第三者承継をする場合、かつては相場が1床あたり1000万円などと言われていました。これは、「量」がポイントであったことを意味しているのではないでしょうか。
ところが現在では、単純な量の問題ではなく、バランスの問題になっています。言い換えれば、普通の企業の評価と同じようになってきているのです。
基本的には、その法人が持っている財産をどう評価するのか。そして収益性をどのように評価するのか。この2点だと思います。かつては許可病床数が「既得権益」のようになっていました。しかし、病床の機能が多様化し、さらに地域医療ビジョンなどにより地域での「協調」が求められるなかで、量の持つ意義が低下し、収益性という「質」が問われるようになってきたということではないでしょうか。
ただし、財産の評価には、建物の老朽化という問題が潜在しています。病院の建て替えが必要な場合、承継してもすぐに追加の投資が必要になってしまいます。ここでも、財産の「質」が問われるのです。

必要な病院は経営形態こそ変わっても生き残っていく

病院経営において、オーナーシップが果たしてどこまで必要なのか、という点ですね。とくに地方に行けば行くほど、病院という存在の公的な側面がどんどん強くなっていきます。そうなると、資産価値はどのくらいで譲りたいとか、誰に承継したいとか、どうしても息子に、などということにこだわっていられなくなるでしょう。そうした公的性格の強い法人は、社会医療法人などの形にしていった方が継続性は維持できるのではないでしょうか。
もちろん、公的な存在意義としての病院を継続、維持していくためにM&Aを選択するという場合もあります。とくに地方では、病院の雇用というものが持つ意味は大きいものがあります。200床クラスの病院なら従業員は300人くらい、家族も含めれば700~800人の生活に影響を与えます。
M&Aでは、実は大きな影響を受けるのはオーナーや経営者だけです。多くの場合、承継に際してスタッフは引き続き雇用しますし、医療機能も当面は維持します。保険診療ですから、患者さんにとっては「先生も看護師さんも支払額も、何も変わらない」ということになります。スタッフにとっては、多少「風土」は変わるかもしれませんが、雇用がなくなることはありません。
その意味で、地域にとって必要な病院というのは、形態は多少変わるにしても、生き残っていくものだと言えるでしょう。

AUTHOR PROFILE

営業本部 医療介護支援部 部長

谷口 慎太郎

大手金融機関、投資銀行を経て2009年に日本M&Aセンターに入社。医療・介護を中心としたヘルスケア領域での投融資やM&Aを数多く手掛け、これまで関与したM&A成約実績は50件を超える。主宰する医療・介護M&Aセミナーでは、現場経験に基づいた講演が毎回好評。最新の業界動向・M&A事例やスキーム解説など、ヘルスケア関連雑誌への寄稿も多数行っている。