ご紹介するのは上場企業が介護子会社を事業の選択と集中」により切り離した案件です。
上場企業が社会貢献やCSRの立場から介護事業を運営しているというケースは実は多くありますが、介護業界は事業者の乱立や異業種大手の参入に加え、介護報酬の減算が続き、経営が難しくなってきています。経営の悪化によって従業員や利用者あるいは地域に悪影響が及べば、本体企業のレピューテーションリスクにもなり得ます。M&Aであれば従業員や利用者、許認可もすべて引く継ぐことが前提となるため、事業の取捨選択には有効な手段となります。

さて、X杜は人材派遣を本業とする上場企業の介護子会社です。約10年前に介護施設への人材派遣業を入口に、介護施設の運営にも進出しました。首都圏郊外にて、地域に根差した介護施設として経営は安定し、数年間は堅調な業績が続いていました。事態が一変したのは今から2年前でした。X社は同一地域での介護事業のさらなる拡大を目指し、新規で介護付き有料老人ホームを2棟、続けて立ち上げを行います。しかし、地域ではこの数年間の間に大手介護事業者や社会福祉法人による施設が乱立しており、入居者の獲得競争が激化していました。新しく立ち上げた施設は想定していたよりも入居者が集まらず、全体の業績も悪化していきました。黒字から一転、経常赤字に転落。BSも施設の立ち上げと運転資金を確保するため親会社から多額の借り入れを行ったことにより、債務超過となってしまいました。一方、介護事業の低迷とは真逆に、親会社の人材派遣業はアベノミクスの影響により、業績は好転していきます。そんな中、親会社の経営陣が交代。当然のように、前経営者が着手していた介護事業からは撤退し、経営資源を人材派遣業に集中することが決定され、M&Aという手段を取ることになり、当社にご依頼をいただきました。お相手となったのは、地理的にも近く、事業の多角化を志向する上場企業であり、X社とは逆に介護事業に新規参入する形での譲受となりました。まさに異業種からの新規参入と、既存企業の撤退という、現在の介護M&Aマーケットを象徴するような案件といえるでしょう。

今回のケースでは買い手が介護ビジネスに参入意欲が旺盛であったこと、地域がマッチしたことが成約のポイントだったわけですが、加えてX社の施設が「介護付き有料老人ホーム(特定施設)」「グループホーム」という総量規制がかかっており、許認可の取得が非常に難しい施設であったことも、財務状況が悪い中でも、お相手が見つかったポイントとなりました。

※高齢者住宅新聞から一部転載

AUTHOR PROFILE

営業本部 医療介護支援部 部長

谷口 慎太郎

大手金融機関、投資銀行を経て2009年に日本M&Aセンターに入社。医療・介護を中心としたヘルスケア領域での投融資やM&Aを数多く手掛け、これまで関与したM&A成約実績は50件を超える。主宰する医療・介護M&Aセミナーでは、現場経験に基づいた講演が毎回好評。最新の業界動向・M&A事例やスキーム解説など、ヘルスケア関連雑誌への寄稿も多数行っている。